葉・根菜類の採種方法
いよいよ勉強会も最終回である。今回は主要な葉・根菜類の採種方法について概説していく。葉・根菜類は果菜類と異なり、生育初期の栄養生長の植物体を収穫物として利用しているために、通常の収穫を目的にした栽培と採種を目的にした栽培では栽培期間が大きく異なることになる。葉菜類としてツケナ類、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、タマネギ、モロヘイヤ、オカノリ、バジル、根菜類としてカブ、ダイコン、ニンジンの採種方法を紹介する。
〈葉菜の採種方法〉
・ツケナ類
ツケナ類とは、アブラナ科アブラナ(Brassica)属に分類され、若どりで利用される非結球葉菜の総称で、コマツナ、チンゲンサイ、ミズナ、ミブナ、カラシナ、ワサビナ(薬味のワサビではなく、カラシナの一種)などが含まれる。
栽培
越冬して春先に花をつける2年生植物なので、採種栽培では秋に播種を行い、春に花を咲かせ、5~6月ごろに結実させる。栽培自体は比較的容易で採種量も多い。
母本選抜
各野菜の収穫適期に優良な株を選抜する。病害や虫害への抵抗性、草姿、葉色、葉の硬さなどを選抜の指標にする。自家不和合性を示す他殖性植物であるため、母本数は10~20本程度確保する。母本を採種圃場へ移植する際は霜が強くなる前に済ませる。
開花と交雑性
ツケナ類はB.campestrisに属するコマツナ、チンゲンサイ、ミズナ、ミブナ、B.junceaに属するカラシナ、ワサビナなど複数の種に分けられ、同種間では容易に交雑する。B.campestrisに属するものは同種に分類されるカブとも容易に交雑する。キャベツの仲間やダイコンとの交雑は通常起こらない。交雑しやすい作物が近くで同時期に開花する場合、訪花昆虫の飛来を防ぐために植物体を不織布などで作った網室で隔離する必要がある。
春先、抽苔が始まると茎が倒れないように支柱を添え、網室を設置する。開花期間中は毛の付いたハタキを用いて花粉を飛散させ、受粉を促す。自家不和合性を示す植物であり、また、母本数が少ないと近交弱勢を示すため、各母本の花粉が満遍なく混じり合うよう配慮する。
写真1 交雑防止のための不織布を用いた網室設置(カブ)
結実と採種
種子の成熟は5~6月ごろになる。完全に熟した莢ははじけて種子がこぼれてしまうため、おおむね株全体の莢が熟してきたころに刈り取って雨が当たらないところで乾燥させる。その後、莢を叩いて中の種子を取り出し、ゴミを送風によって除去する。種子のみになったら直射日光に当たらないところでさらに数日乾燥させ、低温・乾燥した環境下で保存する。種子は常命種子に分類され、保存環境が良ければ3年程度は持つ。
・キャベツ(玉キャベツ)
キャベツは、アブラナ科アブラナ属に分類され、冷涼な気候を好む。ケールが原種であるといわれており、育種の過程において結球性が選抜されてきた。
栽培
品種により差異があるが、一般に7月に播種し、10~11月に収穫する夏播き秋~冬どり栽培を行う。低温によって花芽形成が行われる2年生植物であるため、残した母本を越冬させて春に開花させ、結実させる。
母本選抜
青果収穫期に虫害が少なく、結球部が充実していて品種特性をよく表しているものを母本として選抜する。自家不和合性を示す他殖性植物であるため、母本数は10~20本程度が開花時に必要であり、越冬できず枯死する株数も考えて準備する必要がある。
開花と交雑性
キャベツは、ケール、ブロッコリー、カリフラワー、コールラビなどと容易に交雑するため、これらの作物が近くで同時期に開花する場合、訪花昆虫の飛来を防ぐために植物体を不織布などで作った網室で隔離する必要がある。春先になると結球部の内部で抽苔が始まるため、結球部を十字に切開し、抽苔を助ける。結球葉は雨に当たると腐敗することがあるため、順次取り除くようにする。開花期間中は毛の付いたハタキを用いて花粉を飛散させ、受粉を促す。自家不和合性を示す植物であり、また、母本数が少ないと近交弱勢を示すため、各母本の花粉が満遍なく混じり合うよう配慮する。
結実と採種
ツケナ類に準じるが、種子の成熟期はやや遅く、6月ごろになる。品種によっては採種後に種子休眠がみられる。
※Brassica属野菜の交雑について
Brassica属の野菜のうち、我が国で主に栽培されているのは、2n=18のCCゲノムを持つキャベツ類(Brassica oleracea)、2n=20のAAゲノムを持つツケナ・ハクサイ類(B.campestris)、2n=36のAABBゲノムを持つカラシナ類(Brassica juncea)である。キャベツ類にはキャベツ、ケール、カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、コールラビなど、ツケナ・ハクサイ類にはコマツナ、ミズナ、ミブナ、ハナナ、チンゲンサイ、タアサイ、カブ、ハクサイなど、カラシナ類にはカラシナ、ワサビナ、タカナなどが含まれる。同種間では交雑が容易に起こり得るため、網室などによる隔離が必要である。一方、異種間ではキャベツ類とツケナ・ハクサイ類、キャベツ類とカラシナ類の組み合わせでは一般に交雑が起こらないが、ツケナ・ハクサイ類とカラシナ類では交雑する可能性がある。
・レタス
レタスはキク科野菜で、リーフレタスのような非結球性のものから半結球性のサラダ菜、結球性の玉レタスまで多くの品種がある。玉レタスはわが国では戦後普及した。
栽培
1年生または2年生植物である。秋播きまたは春播きにし、7月頃に開花させ、9月頃に採種する。光発芽種子であるため、覆土は薄くする。
母本選抜
青果用の収穫適期に母本を選抜する。良く充実して抽苔が遅い株を5本以上残す。
開花と交雑性
初夏の高温と長日条件で抽苔・開花する。玉レタスではキャベツの場合と同様に結球部を十字切開して抽苔を助ける。自殖性植物であり、交雑は少なく、異品種が近くにあっても2~3m離すだけで良い。開花は晴天でよく進むが雨天では完全に開花せず、腐敗する花も多くなる。開花時期は日本では梅雨に重なる恐れがあり、注意が必要である。
結実と採種
種子が充実すると白い冠毛が発生する。全体の8割くらいが成熟したら刈り取り、バケツなどの容器の中に種を手で叩き落とす。成熟した種子は容易に脱粒する。冠毛や籾殻は送風によって除去する。種子寿命は比較的短く、低温・乾燥条件下で2年程度である。
・ホウレンソウ
ホウレンソウはアカザ科(近年の新しい分類法ではヒユ科)に属する葉野菜で耐寒性に優れる。葉が厚くて丸っぽく、種子が丸い西洋種と、葉が薄くて切れ込みが多く、種子に棘がある日本種、及びそれらの交雑種がある。
栽培
10月に播種し、冬の間収穫しつつ母本を残し、春先に開花させ、5月ごろに採種する。栽培は容易だが、酸性土壌に弱いため、石灰資材などを用いたpH調整をしっかりと行う。
母本選抜
葉色が良く抽苔が遅い株を母本として残す。ホウレンソウは雌雄異株であり、青果用収穫期には雌雄の区別がつかないため、母本数が少なくなりすぎないよう十分注意する。
開花と交雑性
春先の気温上昇と長日条件によって抽苔する。雄株は抽苔が早い。ホウレンソウの花は風媒花であり、遠隔地でも他品種との交雑の恐れがある。周囲に他品種のホウレンソウの花が咲いていないか注意する必要がある。
写真2 ホウレンソウの雄花と雌花
結実と採種
採種は穂が茶色くなる5月下旬ごろに行う。茎から種を起こして回収し、ゴミを除去するが、このとき日本種の場合は手に棘が刺さらないように注意する。種は数個ずつまとまって付いているので1粒ずつにほぐす。種子は低温・乾燥条件下で2年程度持つ。
・タマネギ
タマネギは、鱗茎を食すユリ科野菜で、貯蔵性が高い。形状や色に関して様々な品種が存在する。
栽培
採種を見据えた栽培は2年がかりとなる。9月に苗床に播種し、出来た苗を11月に植えつける。翌年の5月ごろに収穫し、収穫の一部を母球とする。
母本選抜
病気や早期の萌芽がみられず、形状の良い球を母球として選抜する。選抜した母球を2~4℃の低温で8~10月の2か月間貯蔵する。この間萌芽したものも除去する。10月下旬頃母球を定植する。強い近交弱勢を示すため、母球は20球以上必要である。
開花と交雑性
4月下旬になると花茎が伸びてくるので支柱を立てて倒伏を防ぐ。他のネギの仲間との交雑はないが、同じタマネギ同士ではよく交雑するので、他品種のタマネギが近くで開花しないようにする。近くで同時期に2品種以上が開花してしまう場合には、網室を設置して交雑を防ぐ。この場合、刷毛を使って人工授粉を行う。母本数が少ないと近交弱勢を示すため、各母本の花粉が満遍なく混じり合うよう配慮する。
結実と採種
種子が黒く成熟し、脱粒が始まる頃に花茎ごと刈り取り、乾燥・追熟させる。種子寿命が1年程度の短命種子だが、冷蔵庫の低温条件下で保存することによって種子寿命を延ばすことができる。
・モロヘイヤ
モロヘイヤは、シナノキ科(近年の新しい分類法ではアオイ科)の葉野菜で高温を好む。日本での普及は比較的最近のことである。
栽培
暑さに強く、日本の夏の気候でも容易に育つ。温床で播種し育苗したのちに5月中旬になってから定植する。圃場に直播する場合、5月以降に播種する。夏の間、柔らかい茎の先端を摘心して収穫する。
母本選抜
食味が良く生育の良い株を母本とし、選抜後は収穫を停止して株の充実を図る。
開花と交雑性
秋になると短日条件で枝先から開花・結実する。
結実と採種
莢の大半が熟すと刈り取り、干す。莢から成熟した黒い種子を取り出し、密閉容器に入れて保存する。実や種には毒素が含まれており、口にしてはならない(葉などの可食部には毒素は含まれない)。長命種子の部類で、長期保存がきく。
・オカノリ
オカノリはアオイ科の葉野菜でぬめりがあることが特徴である。野生種のフユアオイが栽培化されたものである。
栽培
5月上旬に播種する。最初は間引き収穫を行い、株間が確保されると枝先を摘み取って収穫する。
母本選抜
開花が早すぎる株は除去し、病虫害に強く収穫期間が長い株を選抜する。
開花と交雑性
7月頃開花が始まる。野生種フユアオイとは交雑が生じると考えられているが、互いによく似通った植物であり、実用に当たって問題にはならない。
結実と採種
8月に結実する。ある程度種子が熟したら株を刈り取って干し、種子を叩き出す。種子は、1つの実の中に数粒ずつ入っている。種子寿命は4年程度である。
・バジル
バジルはシソ科のハーブ野菜であり、葉を生食したり、ソースにしたりして利用されている。一般的なスイートバジルに加え、様々な品種がみられる。
栽培
寒さには弱いため、地温が充分高くなった5月以降播種する。茎の先端を摘み取って収穫する。
母本選抜
虫害に強く、香りが良いものを選抜する。
開花と交雑性
摘芯収穫をやめると、摘芯されなかった脇芽の先端から花穂が現れる。花色は品種によって白または赤紫である。他のバジル品種が近くにある場合、交雑防止のため防虫ネットなどで隔離する。
結実と採種
種子が熟して来たら、脱粒しないうちに刈り取って干し、実から種子を叩き出す。種子は乾燥させ、室温で保存する。
〈根菜の採種方法〉
・カブ
カブは、アブラナ科アブラナ属に分類される根菜で、冷涼な気候を好む。煮物用、漬物用など多彩な品種が存在する。
栽培
9月に播種する。11~12月ごろ収穫し、一部を母本として残す。採種は翌年5月頃になる。
母本選抜
青果用収穫期に、品種特徴を表していない異株を除去したうえで、母本を抜き取って大きさの順に並べ、根の肥大状況や形、草姿などに着目して、品種の特性をよく表した優良な個体を選抜する。カブは自家不和合性を示す他殖性植物であり、近交弱勢を示すため、母本は10~20本以上必要である。母本の採取圃場への移植は霜が強くなる前に済ませる。
開花と交雑性
ハクサイ、チンゲンサイ、ミズナなどと容易に交雑を起こす。これらの作物が近くで同時期に開花する場合、訪花昆虫を防止するために網室を作る必要がある。花芽形成は冬季の低温によって起こり、春先になると抽苔してくる。開花期間中は毛の付いたハタキを用いて花粉を飛散させ、受粉を促す。各母本の花粉が満遍なく混じり合うよう配慮する。
結実と採種
ツケナ類に準じる。
・ダイコン
ダイコンはアブラナ科ダイコン属に分類される根菜で、各地で様々な品種が分化してきた。
栽培
9月に播種し、11月頃に収穫を迎える。母本は越冬させ、翌春に開花、7月頃に採種する。
母本選抜
青果用収穫期に、母本を抜き取って大きさの順に並べ、品種特性を表した平均的な根長のものを選ぶ。裂根や病虫害にあった根を持つ母本は除去する。モザイク病感染株も除去する。ダイコンは自家不和合性を示す他殖性植物であり、近交弱勢を示すため、母本は10~20本以上必要である。母本の採取圃場への移植は11月上旬頃に行う。
開花と交雑性
ダイコンは、他のアブラナ科野菜とは交雑しない。ただし、ダイコンの異品種間での交雑は容易に起こるので、近くで同時期に2品種以上のダイコンが開花する場合は、訪花昆虫を防止するために網室を作る必要がある。開花期間中、近くに異品種がなく、交雑の恐れがない場合はミツバチなどの訪花昆虫に受粉を任せることができる。しかし、隔離を行う場合や、訪花昆虫に乏しい場合は、毛の付いたハタキを用いて花粉を飛散させ、受粉を促す。各母本の花粉が満遍なく混じり合うよう配慮する。
結実と採種
ツケナ類に準じるが、採種は遅く、7月頃になる。
・ニンジン
ニンジンはセリ科の根菜で、冷涼な気候を好む。根がオレンジ色のものが一般的だが、赤いもの、黄色いもの、紫のものなど、多様性に富む。
栽培
夏播き秋~冬どりが一般的である。7月下旬~8月上旬に播種し、11月に収穫する。母本は翌年の6月に開花し、結実する。採種は8月上旬頃になる。
母本選抜
青果用収穫期に、母本を抜き取って大きさの順に並べ、品種特性を表した平均的な根長のものを選ぶ。病虫害に弱いものは除去する。ニンジンは雄ずいが先熟するタイプの雌雄異熟性を示す他殖性植物であり、近交弱勢を起こしやすいため、母本数15~20本以上は確保しなければならない。母本の採種圃場への移植は11月下旬頃に行う。凍害を防ぐため、根が地面から露出しないよう土寄せをしっかり行う。
開花と交雑性
ニンジンは低温の後に高温・長日条件にさらされることによって抽苔が進む。4月下旬頃から抽苔が始まるので、倒伏防止に支柱を立てる。開花は6月頃になる。花は主枝、第1次側枝、第2次側枝につくが、第2次側枝では種子の充実が悪くなり、発芽率が低下するため、第2次側枝は切り取って整枝する。
結実と採種
7月下旬頃、種子が少し脱粒するころに花茎ごと切り取る。花茎を数日間陰干してから採種する。種子はよく乾燥させてから密閉容器に入れて冷蔵庫に保存する。採種後に種子休眠を示すが、冷蔵庫に数日入れておくことによって打破できる。
参考文献:
・にっぽん たねとりハンドブック/プロジェクト「たねとり物語」(著)/2006年/現代書館
・自家採種入門/中川原敏雄・石綿薫(著)/2009年/農文協
・図説園芸学/荻原勲(著)/2006年/朝倉書店